ご出産おめでとうございます。出産が終わったその時から、授乳がはじまります。笑顔で赤ちゃんを見つめながら母乳をあげるイメージがある授乳ですが、実は想像以上にハード。母乳外来という母乳に関する相談専門の外来もあります。今回は母乳が出にくいタイプだった筆者の経験も交えながら母乳が出ない原因と対策を紹介します。


この記事の目次


母乳のしくみと種類


まずは母乳がどうやって作られて授乳できるのかという仕組みと、母乳の種類についてみていきましょう。


母乳のしくみ

妊娠するとプロラクチンという乳腺の発達を促すホルモンの分泌が盛んになります。


そのため妊娠中から胸が張る、バストが大きくなることも多いはず。しかし、妊娠中に母乳が出てくることはありません。


それは「妊娠」を継続させるためにプロゲステロン(黄体ホルモン)が出続けているから。


プロゲステロンは母乳を出すことを抑制するホルモンでもあるのです。


出産すると、妊娠状態を継続する必要がなくなるため、プロゲステロンの分泌が減少し、母乳が出るようになっていきます。


さらに赤ちゃんが乳首を吸うとその刺激によって、オキシトシンという母乳を出させるホルモンが分泌されるようになります。


プロラクチンは乳腺を発達させ母乳を作り出す働きとともに、「赤ちゃんを守らなくちゃ!」という気持ちを作っていくとも言われており、「母性ホルモン」とも呼ばれています。


オキシトシンは別名「しあわせホルモン」と呼ばれるくらい、分泌されることで幸福感を与えてくれると考えられています。


母乳にも種類がある

産後から出てくる母乳。実は種類があります。


初乳
分娩直後から分泌がはじまる母乳のこと。色は黄色がかっており、赤ちゃんの免疫機能を補う役割があると考えられている。


移行乳
産後数日すると、母乳の質が変化する。その移行の間の母乳を移行乳と言い、産後数日から2週間後あたりまでの母乳のことを指す。


成乳
初乳から移行が終わった成熟した母乳のこと。色は白色で、赤ちゃんの発育成長を促せるようエネルギーが高いものへと変化している。


母乳が出ない原因


ホルモンが関与している母乳。しかし、産後必ずしもスムーズに移行し授乳できるとは限りません。


授乳の回数が少ない

育児書などで「授乳は●時間おき」「左右●分ごとに交代」など、授乳の目安が描かれていることがあります。はじめての育児で目安通りにしないと、と焦るママもいらっしゃるでしょう。


目安はあくまでも目安です。ママや赤ちゃんの個性はそれぞれ違いますので、目安通りだと母乳が出ないなんてこともあるでしょう。また目安通りに!と気負うと身も心もボロボロになるかもしれません。


授乳がうまく行えていない

赤ちゃんもママも授乳は初心者。ママの授乳の仕方だけが原因ではなく、赤ちゃんの吸い方も上手ではない、ということです。


また、ママの乳首のかたちによっては授乳しにくいケースもあります。


乳頭トラブル

乳頭から雑菌などが入り炎症しているなど、乳頭のトラブルで母乳が出ないことも。授乳時に痛みがある場合などは注意が必要です。


ミルクの足しすぎ

ミルクの足しすぎでお腹が膨れてしまい、母乳をあまり吸ってくれないことから母乳が出にくくなることもあります。


母乳はどれだけ飲んでもらえているのか目で見ることができないため、不安だからミルクを足しておこう、という気持ちもあるかもしれませんね。


ストレス

ストレスによって、母乳が出にくい場合もあります。


体質

多くの方は上記までのどれかに該当するようですが、母乳が出ない体質の方もいらっしゃるそうです。


他にも、過去に乳腺に影響があるような病気やけがをしている場合も母乳が出ないことが考えられます。


母乳が出ない時の対策


では、母乳が出ない時にはどうすればいいのでしょうか。


助産師さんに相談

産後の入院時に助産師さんに相談しましょう。産後すぐは初乳から移行乳の時ですから、なかなか出にくいこともあるかもしれません。


退院後も、相談に乗ってくださるケースもありますので、出産する・出産した産院に問い合わせてみてください。


【授乳の方法】抱っこの工夫

赤ちゃんの抱っこの仕方などを工夫することでうまく授乳出来ることもあります。


よくイラストなどでも見かける授乳姿「横抱き」は、新生児期はあまり楽なポジションではないため、授乳クッションなどが必要です。また、赤ちゃんの方がうまく吸い付きにくい場合があります。


横抱きだと吸いにくい場合は、赤ちゃんの飲みやすい抱き方に工夫しましょう。


飲ませる乳房と同じ側の脇に抱えて授乳する「フットボール抱き」や、一緒に寝そべりながら授乳する「添い乳」などがあります。


新生児は柔らかく小さな存在ですので、なかなか横抱き以外の抱き方が緊張してうまくできない、という方は助産師さんに相談してみてください。


おっぱいマッサージ

おっぱいをマッサージすることで、母乳が出やすくなります。母乳の元は血液ですので、おっぱいをマッサージで血行が良くなることで母乳の出に影響するのかもしれませんね。


母乳が詰まって乳腺炎になったときにもおっぱいマッサージで解消することもあります。

とはいえ独断でマッサージは控えて。マッサージができる助産師さんにお願いしましょう。


母乳外来を受診

おっぱいマッサージや助産師さんとの相談を含め、母乳外来を開設される産院もあります。母乳が出なくて不安な時以外にも、きちんと出ているかのチェックでもOK。授乳の様子を見たい、とお願いされることがありますので、受診直前の授乳は避けて。


こまめな授乳

授乳の頻度を増やしてみましょう。乳首への刺激で母乳がつくられたり、出されたりするので、こまめに授乳をすることで母乳が出てくるようになります。


ストレスを取り除く

産後の環境によってはストレスが大きい人もいます。まずはストレスを取り除くようにしてください。

ストレッチなどで気分転換も大事です。


また、授乳自体がストレスと感じる場合はミルクへの検討も大切です。

 

【体験談】母乳が出ない…!産後1ヶ月健診で再検査


筆者は母乳が出にくいタイプでした。


退院後も、助産師相談に通院し、助産師さんにマッサージをしてもらったり、ミルクを控えめにして頻回授乳をしたり、と母乳が出るためにいろんなことを取り組みました。その結果。


1ヶ月健診で、体重が増えておらず再受診になりました。


出生時の体重から、わずか188gしか増えていなかったのです。

 

母乳が出ないことでつらい気持ちに

出産するまでは、母乳は産めば出る、と軽い気持ちでいました。そして母乳にいいことをしていれば、分泌もよくなると思っていました。


しかし、「母乳育児をしなくては!」という気持ちはママ側のエゴで、ひもじい思いを子どもにさせてしまったことにショックで、号泣。


とはいえずっと泣いているわけにもいきません。1ヶ月健診時の指導の通り、ミルクの量を一気に増やしました。すると、徐々に体重が増え、3~4ヶ月健診では問題なしに。


生後5ヶ月までは母乳4~2:ミルク6~8の割合で授乳。


そしてある日、母乳を吸うのを嫌がるようになり、卒乳しました。もっとたくさん飲ませてあげた方がよかったのかな、とまた涙が出たのを覚えています。

 

産後はそうでなくても気持ちにゆらぎが生じやすい時期

第一子の産後は育児以外のトラブルも多く、精神的に参っており、さまざまな不定愁訴が筆者を襲いました。色々と診察を受けた結果、脳がホルモンの分泌の命令を出せないくらいのストレスがかかっていたそうです。


産後は気持ちが揺らぎやすい時期。母乳育児が負担になるなら、思い切って自分と子供のために母乳育児を手放すことも必要だと思います。


母乳が出なくても子どもはちゃんと育つ!


母乳がたくさん出るママの話や、比較的すんなり授乳できるようになったままの話を聞くと、母乳が出なくて苦労しているママたちはもしかすると心が苦しくなるかもしれません。


その心苦しさがストレスとなって、どんどん母乳が出にくくなるくらいなら、混合育児や完全ミルク育児の選択も大切だと思います。


1ヶ月健診で引っかかった子どもですが、その後大きな病気をすることもなく、保育園をおやすみすることもほとんどないほどの健康優良児です。


それもあって2人目は「出なくてもいいか」と思って授乳したところ、ストレスがない分思ったより授乳がすんなりできました。母乳の道が1人目で作られていたことや、2人目の方が吸い方が上手だったという理由もあるかもしれません。


母乳7~8:ミルク3~2 の混合の割合で、時には母乳だけで授乳が終わることも多くありました。

1人目は毎回ミルクを追加していたので、母乳だけで満足することに驚いたものです。


その後、保育施設へ毎日通うようになると、朝晩の2回の授乳になり、早々に出にくくなってしまい子どもも自然と吸わなくなりました。


そのため卒乳は、2人ともスムーズそのもの。


母乳だったから、そうでなかったから、といって愛情に差があるものではありません。


母乳育児、ミルク育児、残念ながらどちらにも過激な考え方の人がいます。そんな人たちの声は聞き流しましょう。またそうでなくとも、産後のママの状況を考えて発言できないような心無い人の発言を真に受ける必要なんてない!と思っています。

 

ママ自身が穏やかな気持ちで入れる環境が一番


母乳が出ないことに悩む気持ち、とってもわかります。でも大切なのはママと赤ちゃんが笑顔で過ごせること。そのためには産後は何よりもママが穏やかで過ごせるようにするのが最善です。母乳が出ないことでママ自身が自分を責めずに過ごしてくださいね。そのための選択肢に「ミルク育児」を選択肢に入れることは、何の問題もないですし、子どもの成長を願う愛情があるからこその選択ですよ。

 

 photo by photoAC